まるでパンを食らうように

在宅ジャニオタ男子。ドドドドド新規。

俺と大西さんと思春期の話


人はいつから大人になるのだろう。遠からずその時を迎える自分、そしてティーンエイジの少年が多くを占めるジャニーズジュニアのことを思うとつい考えてしまう。人はいつまで子どもでいられるのだろう。
俺は自分の声変わりがとても嫌だった。あんなに嫌だったことはこれまで十数年生きてきてもなかったんじゃないかというくらいに嫌だった。早生まれのせいか人より背丈の小さい子どもだったので大きくなりたいとは思っていたけれど、こんなことはまったく望んでいなかった。喉の気持ち悪い違和感が、そのまま大人になることへの嫌悪感のように感じられた。変声期は何日も何ヵ月も、終わりがないように続き、しかもそれが、声を発するだけで自分の他の誰にでもわかってしまうのだ。みっともないことのように思えた。他の人もみんなそうなるんだとはわかっていたけれど、切実に嫌な気持ちに変わりはなかった。安定しない声で話すことが嫌で、反抗期もあってかどんどん内にこもって本ばかり読んでいた中3の頃、俺はうっかりジャニオタになった。今思えばジャニーズじゃなくてもなんでもよかったじゃねえかと思うけれど、人とは違うものを好きでいる自分はけっこういいものだった。
大西さんの話をしよう。彼は関西ジャニーズジュニアに所属する12歳の少年だ。なにわ皇子というユニットにも選ばれている。フルネームは大西流星。その名の通り、夜空を駆ける流れ星のようにどこか切ないきらめきを見せるアイドルだ。俺は今、この大西さんにジャニーズオタクとして未だかつてなかったトキメキを感じている。なんだ結局ジャニーズの話かよと思わないでほしい。いや、ジャニーズの話なんだけど、落ち着いて考えよう。大西さんはジャニーズである以前に12歳の中学生なのだ。
俺の部屋には、過去に購入した見ず知らずの12歳の中学生の写真を美しく鑑賞するためのアルバムがある。もちろんその中学生とは大西さんだ。寝不足で疲れて帰った日、課題をやり終えてベッドに向かう前、無遠慮な言葉にイラついた時、俺はそのアルバムを開いてゆっくりと息を吐く。荒ぶった刺々しい気持ちはあっという間に頭の隅に縮こまってしまう。大西さんは丸くて白いほっぺたをしている。よく紅顔の美少年と言うけれど、大西さんの頬が真っ赤になるところはあまり見たことがない。かといって血色が悪いわけではない。シルバニアファミリーのうさぎを思い出す。指先にさらりと触れる、マシュマロのようなほっぺたをしているに違いない。ぷっくりと膨らむ下瞼。丸く柔らかい印象のパーツで作られた顔の中で、上唇だけがとても薄い。なだらかな唇がきゅっと結ばれる口角。ジャニーズに所属して2年になるわりには、大西さんは年相応に清々しい髪型をしている。平べったい耳がしっかり見えるところに好感が持てる。指が丸くて短いのが、子どもっぽくて微笑ましい。
さすがに中学生の写真を買うのはヤバいし完全にアウトだと思っていたけれど(アラフォーのおっさんの写真はセーフかと言うとそれも怪しいけど)、それをファイリングして眺めている方がよっぽどヤバい。ヤバいヤバいと思いながらもやめられないのがヤバい。今の俺に大西さんは麻薬も同然だ。大西さんが所属するなにわ皇子が出演するバラエティ番組「まいど!ジャーニィ~」を最高の画質で毎週録画し、Blu-rayを焼いていく。すぐには見れなくても時間ができればディスクを取り出し、一生懸命にお話しする大西さんをまいジャニメンバーやゲストと一緒になって目を細めて見る。年齢からすると幼すぎる容姿に反し、大西さんはまいジャニ唯一の中学生メンバーとして高校生や成人までいる他のメンバーと並んで話せる切れ者だ。声や口調は幼いけれど、いつも言うことは言う。この間まで小学生だったと言われるとすごく子どもに思えるけれど、自分のその年の頃を思い出すと大西さんはとても落ち着きのあるしっかりした人だ。
まいジャニメンバーであるKing of Kansaiとなにわ皇子のメンバーは、この春の進級で永瀬廉さんが高校生になり、それによって義務教育中のメンバーが12歳の大西さんただ一人になった。最年長の向井康二さんも20歳の誕生日を迎えた。年齢と関係あるかはわからないけれど、平野紫耀さんと永瀬廉さんはSexy Zoneを中心とするSexyファミリーという括りの関東ジュニア選抜に呼ばれ、グループは変化の様相を見せている。大西さんがしっかりした子どもになったのは、周りが年上ばかりなことの影響が大きいと思う。一番年の近い永瀬さんでも3歳差。ジャニーズWESTがデビューする前は、自分の倍ほどの年齢のベテランとまで一緒のステージに立っていた。メンバーもファンも小さな小さな子どものように思っていたかったけれど、関西の末っ子として子ども扱いを受け入れている大西さんは、実は誰よりも精神的に成長しているのかもしれない。
自分とはまったく別の断絶された存在のように感じていた大人という生き物が、今と地続きのところに待っていることに気づきはじめてしまった。きっと、何かが決定的な日などどこにもなく、一つ一つ積み重ねて自分たちはみんな大人になっていってしまうんだ。単純な前向きには捉えられないけれど、そう悪くもなさそうなその時。その時が遠からずあることを、大西さんはもう知っているのだろうか。最近、大西さんの声はちょっと掠れかかってきた。それを考えるだけで、鳩尾の奥がキュンと痛む。